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流刑地

  • 執筆者の写真: 三時 伊藤
    三時 伊藤
  • 2018年1月5日
  • 読了時間: 3分

一人施設に取り残された。冷たい床に足を投げ出して座っていた。暗い照明に、一人には大き過ぎる白い部屋。リビングにテレビはなく、ソファーとテーブルだけが並ぶ。奥には洗濯機と洗面台が見えている。タオルも何もない、鏡と陶器だけの部屋だった。

私はこの地から一ヶ月の間出ることが出来ない。分かりやすく言えば留学みたいなものである。外に出るドアはあるが、上着を着ないと出られない。汚染されているのだ。

外は灰の世界だった。空は赤の混じった灰色をしている。自分の腰ほどの大きさしかない葉のない小さな木が力なく刺さっており、雪がちらつくが積もることはない。生き物といえば、オオスカシバだけが居た。色褪せたふさふさの、鶯によく似た昆虫だけが一匹そこに居た。

都市に居たことをやっと思い出した。この部屋や世界とは対照的にカラフルで彩度の高い街を、ひとつ人影が走り、高架下を駆け抜けている。それこそ何かから必死に逃げている自分の姿だ。私はこの都市で生きていた。働き、遊び、眠っていた。それなのに何故、こんなことになったのか。商店に、ドラッグ業者に、違法風俗店に必死に頼み込み、匿われ、それでもなお逃げ続け、果てにピンクとブルーのネオンが光るホテルの中に駆け込んだ。それが最後の記憶である。

意識が灰色に褪せた。私は仕事としてこの場に来た。ただその仕事が一体何だったかは未だに思い出せない。

この世界は、色がない。自分の姿を見なくとも、手肌がやけに白かった。時計もないので時刻もわからない。多分、概念がないのだと思う。分からないが、外はきっと冬だ。このまま会いたい人にも、会いたくない人間にも会えないままで過ごしていたなら発狂してしまうだろう。誰も来ない冬のホテルの管理人をしていたはずの男がひとり発狂してしまう。そんな映画があったなと、題名を思い出そうとしたら何故か脳がふやけたように世界が一瞬ぼやけた。

ふとテーブルにタブレットがあることに気がつく。手に取るとそこにあるのは色だった。この世界にはない色が、ただの画面一枚に凝縮されていた。地図の上で何人かのデフォルメされたキャラクターがぴょんぴょん垂直跳びを繰り返している。

タブレットに表示された可愛らしいキャラクターの上に文章が現れた。こんな場所を変えて、あなたの理想の世界を作ろう、なんて。この孤独な部屋でひとり、神になれと言うのだろうか。外に出ても枯れ木とオオスカシバと私だけである。そんな世界の神なんてごめんだ。

タブレットを叩き割ろうとしたが、そこまでは出来なかった。電源のスイッチを押し画面だけを消す。このタブレットは後で外に出そうと思う。しかし、この地から出ようにもどうすればいいかも分からぬままである。それを今から探すのか。その前に私は例え悪人でも誰かに会いたかった。神になるよりも人として生きたい。

洗面所の方から二人ほど男が歩いてくるのが見えた。私は耐えきれなかったらしい。銃さえあればこの場で死ねたのに。この場でそんなものも出せないようじゃ、私は神なんかじゃあなかった。嘘吐き。

 
 
 

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