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上を向いて寝られない

約二週間前、尾骶骨を打撲した。 その日、フラついていた。いつもなら二つ持っていたバッグが確かその日は4つあった。衣装やらなんやらの大量の荷物が揺れた反動で重心が後ろにズレた。両手が塞がって何も出来ず思い切り滑り落ちた。いつもはやらないことだった、なんて言わない。転んだり頭をぶつけたりなんてしょっちゅうある。 ただ、この時だけは、文字通り当てどころが悪かった。 最後の段から放り出され地面にうつ伏せになった。オレンジ色のタイルに力強くメガネと唇をキスさせた。 絶叫した。本来なら台詞を叫ぶべきその喉で。

あのとき、私の演劇を観ていた方なら分かるかと思うが、演劇の時に私はずっと立ちながら演技をしていた。それは演出を変更してもらったからである。下にある荷物すら拾えないとなれば演技にも支障が出る。 殆ど身体全体に障害があるような状態で本番に最後まで行ったため、小屋入りからは周りに相当迷惑をかけ、それ相応の叱責もされた。不思議と本番の時は全く痛くなかったが、終わればそれなりに痛くなった。

今でもキツいのは眠る時である。 尾骶骨を打ったその日の夜のことだが、痛みが酷くなり起き上がれなくなったので夜間病棟へ行った。 『打撲ならば二、三日薬を飲めば治る』と言われ薬を飲んでいたが、痛みは一向に引くことがなかった。あの夜は寝られなかったし、今もそれどころか天気次第では痛みが増すこともある。今も朝はなかなか動けない。 ああいう怪我はよく起こることなのに、何故あの時叫んだか、今なら分かる。身体にとっては未知の感覚だったからだろう。

今現在。私は本来なら外国にいた。 今は仕事も出来ずに家にいる。幸い、外出まで制限されていないがそんなことよりも、不安な面は多々ある。まさかここまでなるとは思わなかった。何故あの時転んだからなんて原因がわかっていても理由は今も分からない。

あの怪我以来、私は完全な仰向けで寝転ぶことができなくなった。MRIでは痛みで泣いていたほどだ。 仰向けで寝られないので、横向きで寝る。途中、横向きで寝られなくなるので、うつ伏せで寝る。変な話今は昼まで寝ないと眠気が取れないのですごく純粋に困る。

いよいよ頭が違ったか、上を向けないのは演劇を始めてからなのかもしれない、なんてそう思い出した。ただ理由は何故かは思い出せないけれど確かそうだったと思う。演劇を始めてから横向きで寝ていた。 演劇は楽しいが、あれで病んでいたり荒れていたりする人が多いのも理由はなんであれなんとなく分かる。 演劇は呪いだ。自分自身にかける呪いだから本人も気づかないこともある。あまりにもこびりついていて、この人の呪いは解けないのだろうと思うことも時々ある。 私自身、演劇で精神を病んだことを決して否定はしない。たしかに演劇に手をつけていた私はいつだって荒れていたし、現に私はいよいよ心療内科へ足を運ぶことになった。自分でも信じられない。

というか、去年から病院に行きすぎてそろそろ近所の病院の診察券ロイヤルストレートフラッシュが作れる。そんなロイヤルストレートフラッシュは嫌だ。

演劇は好きだ。数年前、大人になる前、たしかに演劇が好きだった。ただ、演る側から言えばあれは心に染み入る良いものとは決して言えないだろう。それでも役者は、脚本家は、演出は、演劇と関わるのをやめないのだから素直にすごいと思う。

明日は放射技師のレポートを待つ。来週はまた別の病院に検査を受けに行く。とりあえずそれだけこなせばいいかなと、そう思う。

今夜も上を向いて寝られない。

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