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魔法使いと

  • 執筆者の写真: 三時 伊藤
    三時 伊藤
  • 2018年9月26日
  • 読了時間: 3分

この一日前に書いていた記事はかなり暗い内容を書いていて、そんな記事を投稿するのもせっかく読んでくれている読者の方々に対して申し訳ないので、改めて書こうと思う。

あの日クレーンゲームで二百円で手に入れたそれは、書いたものを消せる安物のブギーボードだった。最近秋葉原などで売られていることもある電池式のボードの簡易版だ。あまり質の良いものではないので時々書いたものが消えなくなったりするが、軽くて持ち運びしやすく、暇潰しになる程度には遊べる画期的なものだった。

次の日に私の声が消えた。

一通り病院は行ったがいかんせん何処も匙を投げた。専門病院にはまだ足を運んでいないが行くのはいつになるかはわからない。

とはいえ原因不明の病なんてのでは面白みがないので、私はこれを魔法使いの呪いと呼ぶことにした。おとぎ話よろしく魔女と言わないのは、その呪いをかけたのは男かも女かも、人であるかもわからないからである。

昨日、この呪いが解ける条件を一つだけ知った。閉鎖空間で、自分以外誰もいない場合だ。そのあと家族とも普通に話すことが出来た。しかしそれも三時間だけ。それと、今日に至ってはその条件を満たしても一言も発せなかった。

ついさっき母親が『寝言を言ってた。あんた話せるよ』と言っていた。夢の続きで話せるかと思うこともあるが、それは毎朝行っている。出来たことはない。

病気ならネガティブな方向に考えがちだが、呪いならば一体何が理由か、想像の範囲が広がって少しは楽しくなる。ファンタジーでも構わない、何かの余地がそこにはあった。

不思議なもので、声が出せないと、自分のことがだんだん人形か何かのように思える。話せる時はあるがため息を吐く要領で舌と口を動かしてやっとの事で出るニュアンス的な音声に等しい。携帯のメモ帳で話そうにも文字が細かく見えないと言われ、このブギーボードで意思疎通をしようにも限界がある。ほぼ毎年、風邪で丸一日話せないこともあったが、不便さはその比ではない。

リアルタイムで出力出来ないと本当に思っていることがわからなくなるものだということを生きてきて初めて知った。ただでさえ自分が存在しているかどうかもあやふやで二十年以上生き存えた上で、体が腐敗して落ちていくような感覚といえば伝わるのだろうか。ある朝起きたら利き手がない、そんな感じである。

想像と夢と現実との区別がつかなくなったが、それを話すことができる場も声がなければないものだ。話すこともこれで正しいのかどうかというのがわからなくなってくる。

悪夢しか見ないが、眠る時間が圧倒的に増えた。友人から言われた眠り姫という表現もあながち間違いでもないなと思い始めた。今日もまた夢を見る。時に追いかけられ、無視され、人を殺し、閉じ込められ、視点そのものになる、そんな夢を。

もしかしたら、今度の夢では空を飛べるかもしれない。首に巻きつくこの呪いが解けたら、何か新しい世界にいるかもしれない。

柄でもないことを書いている。こうでも思わないと難しいのである。こうしている今も隣にはブギーボードがあり、びっしりと、字が書かれている。

声の代わりを手に入れて、今日で一週間が経った。


 
 
 

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